第111回(平成24年10月12日)

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人間万事塞翁が馬


 同じ表題部の「ことわざ」を話しても、言う人によって重みが違う。先にノーベル生理学・医学賞を授与された京都大学山中伸弥教授の若い人を対象にした講演での言葉である。偉い人でも、我々と同様の感覚を持つことが分かった。

 授賞理由は、難しい内容でよく理解できないのだが、私なりに理解する限りでは、受精卵が細胞分裂して脳になったり皮膚になったりする。そして子供が生れてくる。いったん皮膚になったものは、他の臓器にはならないし、脳や神経細胞などは再生不可能なものであるというのが今までの常識だが、皮膚組織から分裂をさせて遡って受精卵の段階にまで初期化することに成功したということらしい。初期化できれば細胞分裂により、再度再生利用することができることになり、たとえば、機能を失った神経細胞を再生させれば健康な体として動かすことができるようになる。

 ノーベル賞は分野がいろいろ分かれて授賞されているが、我々の生活に直結しないものもありよく分からないものが多い中で、山中教授の iPS 細胞の開発は教科書を書き換える画期的な発見であるため、人類にとっては願ってもない永遠の有効な治療手段である。再生医療等は世界中で進行中の巨大プロジェクトであるため、さらに、迅速に発展させることが必要であり、ノーベル賞授賞の責任は重い。

 国は、これから 10 年間補助金を出すということだが、補助金のうち、人件費の占める割合が大きい。多くの人が当該プロジェクトに関与しているものの、ほとんどの人は非正規職員のようである。これらの人を雇用する財源を補助するということになりそうだ。要は、人件費の補助ということでもある。

 iPS 細胞とは、人工( INDUCED )多能性( PLURIPOTENT )幹細胞( STEM CELL )の頭文字を取り山中教授が名付けた。わざわざ小文字の i にしたのは、携帯音楽プレーヤーの「 ipod( アイポッド ) 」のように広く普及してほしいという願いが込められているようだ。

 難しく言えば、受精卵から皮膚や血液などに、すでに成長した体細胞の中に遺伝子を組み込むことにより、皮膚等として獲得した特徴を白紙に戻し(初期化)、様々な種類の細胞になりうる能力(多様性)をもち、ほぼ無限に増殖できる能力を持たせた細胞、ということになる。すなわち、ノーベル賞の授賞理由「成熟した細胞を、多様性を持つ状態に初期化できることの発見」という表現になる。

 なお、本人の細胞を利用するので免疫の拒絶反応の問題は生じない。また、ガン化の危惧もあるがリスクはどんなことにも付きまとう。より以上の利益が見込まれれば、リスクは考慮外にして良いと思うのだが…。

 何れにせよ、これから実用化していかねばならず、世界中で試みられている再生医療なので時間との競争になる。ただ、教授がマラソンに例えられているように、飛ばしすぎても息切れするから、そのあたりの頃合いが大切でしょう。期待大です。

 

 話は変わるが、先日岡山県真庭市が中心になって地域おこしの一環として、真庭市内で行われている木質バイオマス視察見学会のバス旅行に参加して、湯原温泉に泊まってきた。

 木材の本場である真庭市は、立木から商品までの一貫した流れが分業により行われている地域である。立木も杉、檜が主なもので、製材所も 30 社ばかり有り、2次製品として木材のチップ等を取り入れて加工販売しているコンクリートブロックの工場等もある。

 最近、木の皮や木屑とか間伐材などを燃料として発電させる、木質バイオマス事業に参入することで一躍注目されている。

 火を焚いて水蒸気を起こし、タービンを回せば発電できるから廃材などを原料とする試みである。地場の木材だけではなく、外材も入っているから加工クズなども燃料の材料になる。安定供給できることが、大切な前提条件である。それに対応できる諸条件が整った状態になった、ということである。

 たまたま、テレビを見ていたらサツマイモから発電することに成功しているそうだが、燃えるものなら水分を少なくすれば、なんでも良いのではないかと思う。経済性(安さ)と安定供給( 24 時間稼動させる)が確保されれば化石燃料である石油を使わなくてもよいはずである。やはり、コスト面と供給の安定性の確保が必要であろう。

 真庭市の取り組みは、新しい産業の支援として地域おこしに効果があり、視察客の落とすお金が地元への経済効果をもたらしていると思われる。  

       

おかやま適塾

馬場 勉

 

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